生前贈与による相続税対策
生前贈与による相続税対策
相続税対策には,単純なものから複雑なものまであり,また,税制改正や通達改正によって,その有効性は大きく変わりかねません。
種々さまざまな対策を講じたとしても,所有者の名義が変わるまでは,ある意味では相続税対策は完了していないといえます。生前贈与には,多くの制約がありますが,十分なメリットもあります。
さて,相続税と贈与税を比較すると,次の2点から贈与税の方が高いといえます。
① 基礎控除に差がある
相続税の基礎控除額は,5000万円と法定相続人1人につき1000万円を加えた金額ですが,贈与税の基礎控除額は110万円です。
② 累進税率の上昇割合が異なる
税率はともに累進税率になっていますが,贈与税の方が税率のアップ率が厳しくなっています。最高税率はともに50%ですが,相続税では課税価格(財産)が3億円超でこの税率が適用され,贈与税では1千万円超でこの税率が適用されます。
一般的には贈与するよりは相続したほうが有利といえます。しかし,贈与の場合は長期間にわたって毎年少しずつ財産を分割移転することができるという利点があります。分割移転をすることによって一時に財産を相続するときの税負担より低い贈与税率を利用できるのです。
たとえば,財産3億円を配偶者と子ども2人の法定相続人が法定相続分どおり相続した場合には,相続税は2,300万円となり,その財産に占める税額の割合は7.7%となります。一方,毎年3人に250万円ずつ合計750万円を40年間贈与するとすれば,1回に納める贈与税は3人合計で42万円となり,40年間の合計額は1680万円となります。その税負担割合は5.6%となり,財産の分割移転によって多少税負担は軽くなります。
また,贈与の場合は受贈者を自由に選ぶことができますから,孫など世代飛び越しをすることもできますし,法定相続人に限らず人数を増やすことなどによって贈与税額を自由に選択することができます。
このような方法を駆使して財産を長期間にわたって税率の低いところで継続的に贈与しておけば後の相続税も減るというものです。
次に,計画的贈与にあたっては,次の点に留意してください。
① 将来値上がりが期待できるものから贈与する
値上がり前に財産を贈与すれば,値上がり益は受贈者が享受できます。
② 譲渡不能の財産,換価困難な財産から贈与する
換価の容易なものは,それを相続人が売却し納税資金をつくることができますが,非上場株式のようなものは売却困難ですので,経営権の移転を考慮して早く移動しておくべきです。
③ 財産移転後の管理は,受贈者が行う
贈与を受けた者は,その財産を自ら管理運用し,運用益および維持管理費は当然自ら享受し,負担する必要があります。
ところで,夫婦間の贈与および親子間の贈与の場合には,次に述べますように一定の要件のもとに特例がありますので,十分に活用すべきです。
夫婦間の贈与
(1) 夫婦間の贈与の特例
この特例は,次のすべての要件に該当した場合には,居住用不動産または金銭の贈与のうち2000万円の控除が認められます。
- ① 婚姻期間が20年以上である(内縁期間は除きます)配偶者からの贈与であること
- ② 居住用不動産(土地,家屋,借地権など)または居住用不動産を取得するための金銭の贈与であること
つまり,住宅やマンションそのものか,それらを購入するための現金でもよいということです。「居住用不動産」の贈与は,必ずしも土地あるいは建物全体を一括して贈与することではなく,部分的に贈与して共有持分とすることや土地を分筆すること,建物や土地のみを贈与することも可能です。これには家屋の増築なども含まれます。
店舗併用住宅は居住用部分を下記の算式で按分しますが,居住用部分の面積が全体の面積の90%以上を占める場合は,その全体を居住用不動産とすることができます。
- ③ その前年以前にこの「贈与税の配偶者控除」の適用を受けていないこと
- 通常は一生に一度しか受けられないということです。
- ④ 居住用不動産についてはその贈与を受けた年の翌年3月15日までに居住し,引き続き居住する見込みであること
- ⑤ 金銭については同日までに居住用不動産を取得し,同様に居住の用に供すること。
- したがって,贈与して配偶者の名義にしても,配偶者がそこに居住せず,すぐに子どもに貸していたりしては認められません。
(2) 夫婦間の贈与の特例のメリットと留意点
ところで,この夫婦間の贈与の特例のメリットと留意点は以下のような点です。
- ① 相続税対策としてのメリット
- 相続や遺贈により財産を取得した人が,その相続開始前3年以内に被相続人から贈与により財産をもらったことがある場合は,その財産は相続税の課税価格に加えて相続税を計算します。しかし,この「贈与税の配偶者控除」を適用した居住用不動産等の贈与は相続税の対象から除かれます(加算しなくてよいのです)。ただし,「相続開始の年」に被相続人たる贈与者から贈与により財産を取得した場合は相続税の課税価格に加算します。
- ② 所得税対策としてのメリット
- 居住用不動産(土地,家屋)を部分的に贈与して共有持分にすると,その不動産を後年譲渡することになった場合,「居住用財産の3000万円の特別控除」が夫婦それぞれの持分に対して認められますので,合わせて6000万円もの特別控除が受けられます。なお,土地と建物は共に共有とします。
- ③ 留意点
- 金銭を贈与するよりも居住用不動産そのものを贈与したほうが有利です。相続税,贈与税の評価額では,不動産は時価より低く算定されますので,金銭そのものを贈与するより現在夫名義の居住用不動産を贈与するか,夫が居住用不動産を購入して後日妻へ贈与するほうが有利となります。
- ただし,夫が居住用不動産を購入してすぐに妻へ贈与すると,不動産を購入するための資金そのものを贈与する意図が当初からあったものと見なされますので注意してください。